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宏池会座長林芳正・中国大使程永華、特別対談

2018/08/30

日中国交正常化の意義とは

林芳正座長(以下、林) 最初に、今年は日中国交45周年ということで、改めてこの歴史を振り返り1972年の国交正常化の意義、それから今日までの日中国交の歩み、また今後の日中関係について、程大使から御高説を賜れればと思います。

程永華大使(以下、程) 今日こういう場で私からお話しできることは、たいへん光栄です。
まずもって宏池会60周年、心からお祝いしたいと思います。
国交正常化について申し上げますと、当時中日共同声明というかたちで、かつての歴史に対して、今までの不正常な関係に終止符を打って、これから未来向けの関係をしようと。いわば原則を固めて、基盤をつくったと思います。
また当時の国交正常化の意義といえば、1つは「信念」。基本的に両国は隣国で和すればともに利し、争えばともに損ずる、仲良くしないといけない。これもかつての歴史によって証明されたことであって、何か食い違い、立場の違い等あれば、お互いに話し合いを通じて解決、あるいは解決できなくても、解決のための努力をする、これを信念を持って続けていくべきだと思います。
もう1つ私が感ずることは、「信義」です。国交正常化の際にお互いに話がまとまりまして、田中総理に対して周恩来総理から「言必信行必果」の6文字を送ったんですよね。言は必ず信ずる。行いは必ず果たす。いわば信義が大切だと。そうすると田中総理から「信は万事の本なり」という言葉を返したそうです。要するにお互いに話し合いをして、大事な話をまとめて、これからこういうことを守って、これからお互いに信じ合っていきましょうと。
中国と日本は歴史的にも二千年の交流があって、しかし近代においては不幸の歴史また戦後も一時不正常な時期がありました。あるいは一部においてはまた偶発の問題によって起こされたトラブルもあります。また一部は、マスコミの報道によって拡大された部分もあります。
こういう問題に対してやはりお互いに信頼し合って、信義を固めて、それで今までのルールを守っていかなければならないと考えます。
3つ目は、中国と日本の関係の特徴とも、あるいは伝統とも言えることは、「民間」、民間の活力、推進力と言えますね。国交正常化前から既にそういう交流の機運が高まりまして、それが45年経って、今日でもなお両国関係の大きな基盤をなすものだと思います。
1つ例を挙げますと、人的交流が国交正常化のときの45年前には、双方向、往復で約9,000人だと思います。しかし昨年の数字で言いますと、双方向で890万人ぐらいだと思いますね。国対国の関係、国の交わりは民が相親しむことにあるというのは常に言われた言葉ですけれども、こういう交流を引き続き促進することによって、政治関係の改善あるいは国の関係の基盤をなすことを期待
します。
それから4つ目は、未来向けというか、あるいは「高きに登って遠くを見通す」という言葉がありますけれども、つまり大きな枠で中国と日本の関係を把握しなければなりません。これはもちろん両国関係の間にいろいろとありますけれども、国際情勢あるいは地域の情勢において、中国と日本の関係をどうすべきかを考えれば、相手の平和的発展を支持しよう。そのラインで、そのレールで未来向けの関係を構築しなければなりません。
最近のことで言えば、習近平主席と安倍総理大臣が杭州のG20サミットの際に会見をされまして、私も同席しました。そのあとリマのAPECのサミットでも話をしましたけども、基本的に45周年を利用して、プラスを拡大して、マイナスを減らす。それで関係を改善していこうという共通認識ができました。その際に習近平主席は、「今、中日関係は上り坂に差し掛かっていて、アクセルを踏まないとバックして、後退してしまう」、との例え方をしました。そういう認識をお互いにもって本当に共に努力をして、前に進めるよう努力しなければならないと感じております。

新しい時代の日中関係、
日本の外交について

 次に大使は日本の政治をどのように御覧になっているかお伺いしたいと思います。また安倍政権ではわれわれ宏池会の岸田文雄会長が外務大臣として外交を担っておりますが、併せてこの日本の外交について、大使の評価をお聞かせ願えれば幸いです。

 立場上お話しできないところもありますけれども、しかし私は大使館勤務だけでも25年、留学を含めると、もっと長くなります。その間日本の政治も、見てきたわけです。
私が思うには、1つは、戦後生まれの方が今はほとんど、8割かそれ以上でしょうか。それから国交正常化後に政界入りした方も、3分の2ぐらいですかね。
ですから今、先ほど振り返りましたけれども、戦後の歴史の流れもちゃんと勉強して、歴史を鑑にする。あるいは歴史を踏まえどのように未来に向かうかを考えるべきだと思うんですね。
中国との関係においては、近年はいろいろと難しい関係が続きました。その中で昨年の4月末に岸田外務大臣が北京を訪問されましたが、その前に東京で「新しい時代の日中関係」というテーマで講演をされました。その際、私も現場でお聴きしまして、印象が深く残っているのは、「これからの日中関係においては5つの協力分野、3つの共通課題」というのを取り上げられまして、これから中国と日本はお互いにこういうことを通じて交流と協力、二国間のみならず、地域あるいは世界でどういう役割を果たせるか、という良い話をされました。
今日においては、やはり中国と日本はお互いにイデオロギーとかいろいろと食い違いはありますが、それを乗り越えて、冷静に考え、中国にとって、日本にとって何が国益なのか、共同の部分を拡大するために努力をしなければならないと思います。

 

宏池会への期待

 共通の利益をしっかりと目指してやっていくというのはとても大事なことで、その上で、私はいつも中国の皆さんと接していて感じるのは、やっぱりタイムスパンが長いんですね。
中国の方というのは時間軸を非常に長く取られて、物事を戦略的に進めていこうという姿勢が強くて、私が最初に日中友好議連の事務局長になって訪中をさせていただいたときに、唐家璇先生が、当時、「あなたはまだ若い。北京で偉い人と会っても、それはそれで写真を撮ったりしていいけれども、同世代の将来の中国の有望な人たちと交流を深めてもらいたい」と言われまして、それで青年訪中団を始めて、過去10年以上に渡って、特に地方にお邪魔をさせていただいて、いろんなリーダーの皆さんと面識を持つことができました。
ところで宏池会は、今年創立60周年ということでございますので、大使から日本の政治の中でも宏池会にどういうことを期待されるかというお話をお聞かせいただければ、幸いでございます。

 宏池会は日本の政治においては大きな力でありまして、しかも中国との関係においても大変重要な存在だと認識します。そもそも宏池会という名前、「宏池」という名前は中国の古典に由来がありまして、そこからも親近感が生まれるところですね。特に私自身にとっては、大平総理大臣、その前の外務大臣の時期から周りを走り回っていた立場から、肌で先輩の方々の中国の関係においての熱意、そういう情熱というか信念が感じられました。
また、その後の鈴木総理、宮澤総理はじめ先輩方の努力、本当に一生懸命に日中関係の発展のために大きな貢献、足跡を残されたことを貴重な財産として、レガシーとして守り続けていっていただければと思います。
今後宏池会の方々がそういう先輩方の伝統を受け継いで、さらに日本国のこれからの平和的発展のために、そして中国との交流・協力関係の改善、友好の発展のために、ぜひ大きな役割を果たされるようにと期待しております。

 ありがとうございます。大平総理は「政は小鮮を烹るが如く」という中国の言葉がたいへんお好きで、よく使っておられたという言葉を私もよく聞いて、いい言葉だなと思っておりますが、小魚をじっくり料理していくように、丁寧にいろんなことによく気配りをしながらやっていくというのが、やっぱり大平先生もそうでしたし、この宏池会の伝統であると思っております。

 個人的な思い出もまだいろいろとあります。1984年に宮澤総理が宏池会会長になって最初に10人ぐらい連れて訪中されたんです。その際には私が日程のアレンジも含めて、通訳もしました。相手は胡耀邦総書記でして、お互いに昔の言葉を引用されましたが、「大国を治めるには小鮮を烹るが如し」。その際にも国を治めるためにどうすればいいかという、その際に老子の言葉をいろいろと引用して、お互いに討論したんですよ。最後はお互いに老子の言葉で、確か4行、交互に1句、1句、書きました。そういうのは貴重ですね。

 そうですね。今は、老子の話を丁々発止できるような人はなかなかいないと思うんですよね。そうですか。ありがとうございました。ほんとにいい話をたくさんいただきました。

 大変光栄でした。これからもよろしくお願いします。

(平成29年1月)

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